安東みきえ「ゆめみの駅 遺失物係」感想
ものすごく琴線にふれる一冊だったので紹介。
安東みきえさんの「ゆめみの駅 遺失物係」を読みました。
※以降、ネタバレ含みます。
ゆめみの駅の遺失物係には、
誰かがなくした物語が届けられています。
主人公のあたしは、物語をなくした気がして遺失物係を訪れます。
遺失物係の人が、届けられた物語をあたしに読んで聞かせてくれます。
あらすじは本当にこんな感じです。
係の人が読んでくれる物語は七話。
この作中作は、どれもこれもどこか不思議な物語です。
月曜日~日曜日までの全七章で構成されていて、
最初は児童書寄りのふんわりしたお話かなーとちょっとなめてたんですよ。
最後の「日曜日」でガツンとやられました。
といっても、最後に事件が起こるわけじゃないのです。
これまでどおり、係の人が届けられたお話を読んでくれるだけなのです。
なんですが、そのお話が「あたし」の境遇とまぁうまい具合に重なり合うんですよ。
「あたし」は物語を無くしたんじゃないのかもしれないと悟り、
そして同時に気づきます。
失くしたのではなくて、まだ作れずにいたのかもしれません。
そして、
あたしは、今度こそ自分の物語を作ってみようと思いました。
ときどき、自分がどうして物を書いてるのか、書きたいのかとか考えるんですよ。
それを訊かれることもありますし。
自分なりの答えはあるんですけども、それに対する感覚的な部分での
一つの答えを得たような感覚になりました。
人はなぜ物語を読むのか、の答えにも似ている気がします。
こうやってまとめるとなんとも陳腐なのですが、
なんの事件も劇的な展開もないゆるふわ系の雰囲気の物語で、
こんなに核心を突かれるようなハッとするような作品はなかなかなかったので、
読書が好きな人、ものを書いている人に強く推したい作品です。
あと細かいことをいうと、文章は非常に平易で読みやすいのですが、
誰にでもわかるような簡単な言葉を用いた
素敵な描写や比喩があちこちに散りばめられていて、
そういう意味でも非常に参考になる部分の多い文章でした。
読み終わった頃には本が付箋だらけに……。
気に入った表現をちょっとだけ引用。
山に体当たりをするようにして、電車はトンネルに入ります。
午後の庭で二匹の蝶は舞っています。譜面から、ふたつの音符が抜け出したみたいに軽やかに。
誰でも知っているような言葉でも、
使い方を変えればこうなるんだなぁとしみじみ。
そんなこんなでイチオシの作品です。読んで良かった。