長野まゆみ「兄と弟、あるいは書物と燃える石」感想
昨日読了しました。
昨年末発売の長野まゆみ作品。
やや出遅れた感はありますが読みましたですよ。
あいかわらずですが、あらすじを書くのがとっても難しいです。
双子の兄弟と、スイス生まれのサラと、小説家と、連続不審火事件について、
色んな人の口から少しずつ語られていく、というお話です。
作中作と、誰かからの口伝と、謎の語り手と。
壮大な入れ子のような構造で、
物語の輪郭が読み進めれば進めるほどどんどん曖昧になっていって、
一体どうなってるんだこれはという感じで後半は一気読みでした。
おまけに、最後は話の全容が見えたぞーと思ったら最後の1ページあれですよ。
してやられた感半端ないです。
長野作品ではちょっと珍しい雰囲気だったなーとも思いました。
世界観自体が謎になっていることは多いのですが、
不審火事件やいなくなった祐介など、わかりやすい事件があってミステリ風。
あと珍しく女性が出てくる比率が高いのと、少年が出てこなくて少女が出てきました。
まぁそれはともかく、あいかわらず描写が美しくて文章もきれいでよかったです。
長野作品の最も好きなところは、地の文全てが比喩じゃないかというくらいの
しつこいまでの、でも押しつけがましくない言葉巧みな描写だと思います。
今回特にいいなと思ったのが、崖に建つ〈リエトの家〉の描写。
「等高線」「段丘」「堆積層」「台地」などの単語がたくさん出てきて堪りません。
長野作品は結構地理的描写が巧みで、
中には地形学の本を参考文献としてあげている作品もあるくらいなのですね。
以下の「野川」は、地形で有名な貝塚爽平の本が参考文献としてあげられてます。
貝塚爽平という名前を巻末の参考文献で見たときは声上げましたね。
一応大学は地理学科出身なので、地理学ではおなじみの名前なのですよ。
ちなみに読書メーターの感想を見ましたが、
この作品から長野作品デビューすると、なんじゃこりゃーって感じで混乱きたして
作品世界に入り込む前にギブアップする人もいそうだなと思いました。
というわけで、長野作品慣れしてる人の方が楽しめると思われます。
とはいえ、長野作品の中では結構わかりやすい部類だとは思います。
ストーリーもミステリー仕立てで続きが気になる感じでした。
何年か前に読んだ「45℃」とかは完全にファン向けでしたので。
長野作品は、普通のエンタメを読むのとはまた違う脳みそが刺激される感じで、
それがまたよいですね。たまにとっても読みたくなります。
この作品読んだら、急に何年か前に読んだ「デカルコマニア」を読みたくなりました。
(調べたら電書が出てないことに気がついた。でも紙本持ってる)
この作品と、もしかしたら構造が似てるからかもしれませんね。
こっちの方は、時代を行き来するお話です。
今積んでる本を読んだら再読してみようかなと思いました。
ちなみに、今作が最新刊だと思ってたら今年の2月にも新刊出てました。
長野作品、何気に結構なペースで出てて、実はあんまり追い切れてない……。
こちらもそのうち。