「トーベ・ヤンソン短編集」感想
今日はこちらの作品の感想。
不思議生物は一切出てこない短編集です。
この短編集は筑摩書房の「トーベ・ヤンソン・コレクション」から
セレクトした傑作選なのだそうです。
ムーミンマニアな私ですが、何気にトーベ・ヤンソンさんについては
あまり知らず、昨年行ったトーベ・ヤンソン展で深く知った部分があります。
そんなに分厚い文庫ではないんですが、全20作収録されています。
どれもそんなに長くなく、十分あれば一作は読める感じです。
芸術一家の中で色んな芸術家を見ながら育ってきた芸術家、
トーベ・ヤンソンの生い立ちを考えると納得の、
変わった人々や芸術観が垣間見える作品群です。
個人的に一番気に入ったというか印象に残った作品が「愛の物語」。
ヴェネツィアの展示を訪れた画家が、とあるトルソに魅入られ、
どうしても手に入れたい、買いたい、という念に捕らわれてしまう話です。
しかも惹かれているのがそのトルソの主に臀部、つまりはお尻。
端から見ていると非常に滑稽なお話なんだけど、魅入られてる側にしてみたら
こりゃもう一大事なわけですよ。
奨学金を注ぎ込んだら買えるかなとかどこに置けばとか。
何かにとりつかれた人間の滑稽さと深刻さを絶妙に描いてる作品です。
それと気になったのが、「リヴィエラへの旅」。
先月観に行ったムーミン映画「劇場版 ムーミン 南の海で楽しいバカンス」と
お話の根底にあるリヴィエラ観みたいなのに共通項が色々あって、
この短編とムーミン映画はぜひ併せてチェックしたいところだと思います。
あと、フィンランドの自然や風土、文化を少しでも知ってると、
より物語の映像が浮かびやすいんじゃないかと思いました。
風景描写が非常に美しく、また画家でもあったトーベさんらしく色の見える文章。
以下、気に入った一文を引用。
彼女はゆっくりと食べながら、空と水の紅色が深くなるさまを眺める。強烈で想像を絶する赤い色が一瞬のうちにあせて、いっさいが紫に変わり、さりげなく灰色に覆われて、早い夜に吸い込まれていった。
――「リス」より
フィンランド行ってきてよかった。
今年こそ再度行きたいなぁとと内心画策中です。